2 Composite graft
■ 左内胸動脈─右内胸動脈または左内胸動脈─橈骨動脈のY-composite graftとした場合の左内胸動脈は吻合冠動脈の血流需要に応答するだけの血流供給能を
有する 【ClassⅠ,evidence level B】.
■ 左内胸動脈─右内胸動脈あるいは左内胸動脈─橈骨動脈のcomposite graftは動脈グラフトによる血行再建を可能にし,良好な長期開存率が期待できる
【ClassⅠ,evidence level B】.
■ Composite graftでは吻合冠状動脈との血流競合が問題となることがある.標的冠状動脈の狭窄度が緩い場合には注意が必要である 【ClassⅡ a,evidence level
B】.
■ 静脈グラフトは,中枢側をin-situ ITAと吻合した,いわゆるY-composite graftの側枝としての使用は回避するべきである 【ClassⅡ a,evidence level C】.
Composite graft はin-situ動脈グラフトにfree graftをその側壁に吻合するか,またはend-to-end吻合により作成された複合グラフトである.in-situ動脈グラフトとして
は主としてLITAが使用される.RITAをinflowとしたRITA-RA,RITA-LITA composite graftの報告もあるが限定的である221).GEA+RA composite graftも限定的に
ではあるが使用されている150).
Free graft としては主にRITAとRAが使用される.GEAやIEA(下腹壁動脈)もfree graftとして使用可能であるが,これまでに集積されたevidenceは得られていない.SVGはITAとの側枝になり得るが両者間のサイズに差が大きいこともあり,側枝に適したグラフトとは言えない222),223).術後造影でみる側枝としてのSV吻合
部より末梢のITA(LADに吻合されている)が血流低下の影響を強く受けることが懸念される223).
LITA-RITA,LITA-RAのcomposite graftは1990年代から使用されている224)-226).Composite graftの利点は長期開存性の良好な動脈グラフトを用いてより多くの枝を血行再建できることである.特に左冠状動脈系をcomposite graftで再建することによって良好な遠隔成績が得られるとの報告は多い227)-229).70歳以上の高齢者においてもLITA+SVG群と比較してcomposite graft使用群の成績が良好であるとの報告が見られる228).
Composite graft としたLITAの血流供給能は重要な問題である.これについては様々な研究がなされてきた225),226),230)-234).ITAの血流供給能に関しては否定的な見解は少なく吻合冠動脈の血流需要に対するLITAの応答能は概ね信頼できると考えてよい.術後造影所見からも,composite graftとしたITAの内径が増大することが知られている235).
Composite graftのもう1つの問題点は,吻合冠状動脈との血流競合によるfree graft側枝および側枝吻合部より末梢のITAおよびRAの狭小化や閉塞である.いまだ
に定まった見解は得られていないが,LITA-RA composite graft における血流競合を指摘した報告は少なくない168),229),235).RAはA-Cグラフトとして使用した場合
でも吻合冠状動脈との血流競合が指摘されており166),168),190),血流のより少ないITAをinflowとした場合,血流競合はより発生しやすいと考えるべきである.Composite graftにおける血流競合はRAを側枝とした場合に限った問題ではなく,ITA,GEA,IEAなどどれを使用しても同じである.in-situ graftを単一のinflowとし
たcomposite graft全体の血流供給能と冠動脈病変の程度を考慮して吻合血管を選択することが重要である.
GEAとfree graft特にRAを組み合わせたcomposite graftもOPCAB症例で使われるようになった150).Inflow sourceを大動脈に求めないOPCABの戦略に見合ったグラフト使用法である.しかしその長期成績は未だ明らかではない.問題となるところはITA+free graftと同様にin-situグラフトとしてのGEAの血流供給能である.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)