9 左主幹部病変に対するPCIとCABG(ステートメント6)
 
 Yusuf らの報告から左主幹部病変患者は薬物治療と比較してCABGの生命予後改善効果が最も大きい病変であることが示されている10).近年の左主幹部病変を対象とした報告からPCI の適応の可能性が提起されてきたが23),これら論文では安定冠動脈疾患に加えて急性冠症候群も含めて解析している.安定冠動脈疾患の非保護左主幹部病変に対する冠血行再建術において,PCI とCABGを比較したレベルの高い観察研究,ランダム化試験は現在までのところ存在しない.このような経緯で左主幹部病変患者に対する冠動脈血行再建方法の選択に関しては歴史的にPCI ではなく,CABGの適応であるとされている.

 ACCF/SCAI/STS/AATS /AHA/ASNC2009 Appropriateness Criteria for Coronary Revascularizationでは非保護左主幹部病変に対するCABGは適切
(appropriate)と判断されているのに対して,PCI はたとえ単一左主幹部病変であっても不適切(inappropriate)であると判断されている24).また2009 Focused Updates: ACC/AHA Guidelinesでは非保護左主幹部病変に対するPCI について,高度肺機能障害,胸部手術既往,標的血管が細いなどCABG施行のリスクと不成功の可能性が高く,かつ狭窄病変の解剖学的形態がPCI のリスクの低い患者(左主幹部単独病変,左主幹部病変+1枝病変)では,CABGの代わりとしてPCI 施行を考慮してもよいかもしれないが,CABG施行のリスクが低い患者や左主幹部分岐病変,左冠動脈主幹部+多枝病変に対してはCABGが優先されPCIは勧められないと記載している25).また我が国のj-Cypherレジストリー(多施設・大規模レジストリー研究)の報告では左主幹部から左前下行枝に1 本のステントで治療した症例と比較して分岐部の側枝にもステントを留置するいわゆる2ステント手技が行われた症例は再血行再建率,心臓死の発生率は高かった26)

 SYNTAX試験の3年目のサブ解析結果から,CABGはDESを使用したPCI と比較して再血行再建率はCABGの方が良好であったが,生命予後,心筋梗塞に差を認めていない18).またSYNTAX score の低い左主幹部病変患者においてはDESとCABGの間で生命予後,心筋梗塞発症,脳卒中の発症率に差はないが,SYNTAX
scoreの高い左主幹部病変患者ではCABGのほうが死亡率・心筋梗塞発症率が低い傾向であった.しかしここでもランダム化試験の限界は認識しなければならず,
SYNTAX試験ではこの点に配慮して,対象となった左主幹部病変患者1,085人中,312人(29%)はCABGのみに適応があると判断され,ランダム化試験にはエント
リーされずレジストリー試験として登録されたことを明示している.2010年8月にESC(European Society of Cardiology)とEACTS(European Association for
Cardiothoracic Surgery)共同のガイドラインが発表された.このガイドラインではSYNTAX試験に基づき左主幹部病変に対するCABGは奨励クラスⅠ,エビデンスレベルAと判断されている1).一方,入口部,体部の左主幹部単独病変あるいは左主幹部病変+1枝病変に対するPCI は奨励クラスはⅡ aまたはⅡb,エビデンスレベルBとされたが,左主幹部単独病変あるいは左主幹部病変+1枝病変でも分岐部病変あるいは左主幹部病変+多枝病変は奨励クラスⅡbまたはⅢと判断されている.
 
目次へ
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)