6 大伏在静脈(SVG)
SVGはCABGにおいて,長期の開存性が満足すべきものではないため,現在は動脈グラフトが主流となっているが,最も初期から用いられたグラフトであり,未だ
に多く用いられているグラフトでもある.採取時に胸部の術野を妨げないため,emergency rescue CABGの際には第一選択となる.
■ 大伏在静脈の10年開存率は60%程度であり,左内胸動脈-左前下行枝存在下で,第二の標的冠状動脈へのバイパスグラフトとして橈骨動脈の方が大伏在静脈よ
り開存率および成績は優れている【ClassⅡb,evidence level B】.
■ RCAの血行再建で大伏在静脈は胃大網動脈より長期開存率は劣る【ClassⅡb,evidence level B】.
■ 内視鏡的採取により,大伏在静脈の性状および短期的な開存率に影響を及ぼすことなく,従来の採取に比べて創部合併症や感染の頻度を減少させる【ClassⅠ,
evidence level A】.
SVGの開存率は1年80%程度,5年70%程度,10年60%程度であると言われている137),184)-186)が,10年開存しているグラフトの45%程度にはvein graft disease(重度の動脈硬化)を認める.よって10年後graft disease free での開存率は30~ 40%程度であると考えられている184).しかしながら,日本人のSVG開存率は術後1年で90%程度,5年70~ 80%程度,10年70%程度,15年60%程度と欧米の報告137),184)-186)よりも高いと報告されている187)-189).しかし,欧米同様に長期開存したSVGの約50%にはgraft diseaseを認めた187).LITA-LAD存在下でその他をすべてSVGのみでバイパスするかRAも追加して使用するかの比較検討で,RA追加使用はSVGのみの使用よりCABGの成績を改善したと報告され177),またLITA-LAD存在下でRAをRCAまたはLCxにランダムにバイパスし,SVGをそれとは反対側に使用した場合,早期グラフト閉塞はSVGで有意に高率であった.標的冠状動脈に高度狭窄がないことがRAの閉塞とstring signを増加させる要因のため,RAは高度狭窄病変の標的冠動脈に使用されるべきであると報告されている190).同様に,LITA-LAD存在下でLCx領域にRAまたはSVGを使用する無作為化比較研究でも,5年開存率はRAの方がSVGよるも有意に優れていた191).一方,RA使用症例の術後約2年の開存率はSVG開存率に比べて有意に劣っており,RAの高度狭窄率はSVGに比べ有意に高いとの報告178)やLITA-LAD存在下でRAもしくはSVGをLAD以外の最も大きな冠動脈にバイパスした無作為化比較研究で5年開存率,心事故回避率,生存率はRAとSVG間に有意差はなかったとの報告179),192)もあり,第二の標的冠動脈にRAを使用するか,SVGを使用するかは十分確立されていない.
SVGのgraft failureの危険因子として標的冠動脈の部位と内径が挙げられる.SVG-LADは他のLCxまたはRCAへのバイパスより開存率は優れていると報告さ
れ137),193),また冠動脈内径が1.5~ 2.0mm以下であれば閉塞しやすいと報告されている137),193)-195).SVG採取後の合併症にしびれ,ひりひり感,疼痛,異常知覚,感染,浮腫が挙げられるが,大伏在神経の損傷による長期疼痛は少なく,異常知覚と腫脹が長期に及ぶ合併症であった196).内視鏡的採取と従来の採取の比較においては内視鏡的採取の方が創部合併症や感染が有意に少なく,またその方法で採取されたSVGの性状や術後初期の開存率に関しては従来の採取法と比べ有意差はなかったとの報告が多数見られる197)-203).
しかし,中期成績を比較した研究では,内視鏡的採取は直視下採取の場合に比べて術後1~ 1.5年で有意にgraft failureを起こしやすく,結果として術後3 年の再血
行再建回避率,心筋梗塞回避率および生存率が有意に低下したと報告されている204).
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)