1 超高齢者(80歳以上)
■ 前下行枝へバイパスのための片側内胸動脈の使用は超高齢者(80歳以上)の予後を改善する 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ OPCABは超高齢者(80歳以上)の手術リスクを軽減する 【ClassⅡ a,evidence level C】.
手術手技の進歩,人口の高齢化により,CABGの対象はより高齢で複雑病変を伴う重症患者になってきている304).特にOPCABの普及と相まって80歳以上の超高齢者に対する手術適応が拡大している.超高齢者では一般に上行大動脈の動脈硬化性病変が強く,人工心肺を使用する際の上行大動脈へのカニュレーションによりアテロームの微小脳塞栓の懸念が大きい305).80歳以上の超高齢者を対象としたOPCABとCCABの大規模比較検討は行われていないが,CABGを行う際に人工心肺の使用の有無で比較した後ろ向きの研究では,OPCAB群で手術死亡,術後脳梗塞,呼吸不全,および入院期間のいずれにおいても人工心肺使用群より優っていたと報告されている306).
LITAとSVGによるCABGはSVGのみによるCABGよりも病院死亡率を改善することが証明されている307).また80歳以上の超高齢者ではITAの使用の有無で手術
死亡に差はなかったが術後4年の生存と狭心症の再発を有意に改善したと報告されている.その一方で完全血行再建については超高齢者では急性期および遠隔期の生存に影響を与えなかったことが報告されている308).80歳以上の超高齢者に対して静脈グラフトのみの群と動脈グラフト+静脈グラフトの群で比較検討した研究では,動脈グラフトを用いることで超高齢者群においても手術死亡率を下げるとともに術後のQOLを静脈グラフトのみの群と比較して有意に改善したと報告されている309).その一方で,グラフト選択に関して高齢者(70歳以上)においては両側内胸動脈の使用はCCAB術後の病院死亡を増加させるとする報告もある310).
80歳以上の超高齢者に対するCABGを考慮する際には,静脈グラフトのみでなく左内胸動脈の前下行枝への使用することと,さらにはOPCABで行うことで急性期
成績のみならず遠隔期成績の改善が期待できると考えられる.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)