10 左室瘤
■ 冠動脈バイパス術に加えて左室瘤切除形成術 【Class Ⅰ,evidence level B】.
■ 左室内へパッチを使用した左室形成術 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 瘤切除直線縫合法 【ClassⅡb,evidence level B】.
陳旧性心筋梗塞で左室瘤を形成している患者では,瘤内の血栓形成から塞栓の誘発,瘢痕組織からの不整脈の惹起,心機能の低下により心不全の発症などから,その予後は不良である.左室瘤は,心筋梗塞後に瘢痕組織となることで形成され,血行再建により心筋虚血を解除することでは,瘢痕組織は放置残存することになり問題の解決にはなり得ない.よって,左室瘤を形成した瘢痕組織は放置せず,切除形成することが得策である.
急性期の初期再疎通療法の徹底が可能となった現在の日本の循環器医療の現況では,広範囲に貫璧性の心筋梗塞を来たし,巨大な左室瘤を形成する症例は減
少しているものの,貫壁性ではないにしても心筋梗塞を来たした後に,左室リモデリングから著しい左室機能低下を来たした虚血性心筋症様の低左心機能症例を散見する(Ⅵ.4 低左心機能の項参照).循環器医療の徹底による急性心筋梗塞の治療予後は改善しているが,心筋梗塞の発症数自体は増加しているのが現状で,その
梗塞心筋が,貫壁性の心筋梗塞により,dyskineticに陥っている部位が左室瘤を形成し,無収縮akinetic部位が大きいものが低左心機能症例となり,その病態の本質に相違はないとの指摘もある542).いずれにせよ梗塞心筋を切除形成することで予後の改善は可能とされている543).
虚血が証明された冠動脈領域への血行再建術と同時に,左室瘤切除を施行するが,瘤切除後の再建方法は,従来の直線縫合法と術後の左室機能および形態から有利とされる左室内へパッチを使用した左室形成術に大別されるが,その優劣についてはまだ議論のあるところである544),545).ただし,はっきりとしたdyskineticな部分を伴う左室瘤形成症例については異論があれども,無収縮akinetic領域に限られる虚血性心筋症様の症例では,左室内パッチを使用した左室形成術が有用であろう546).
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)