8 リハビリテーション
■ 心臓リハビリテーションはCABG術後のすべての適切な患者に行われるべきである 【ClassⅠ,evidence level B】.

 入院中の早期離床,エクササイズ・トレーニングの処方,家族教育287),性的なカウンセリング288)を含む心臓リハビリテーションは術後の死亡率を低下させること
が示されてきた289),290).心臓リハビリテーションはCABGの術後,4~ 8 週に開始され,3か月間教育と運動のセッションを週3回行うことで運動耐用能を35%増加させ(p=0.001),わずか(2%)ではあるが有意にHDLコレステロールを増加させ,体脂肪を6%減少させた(p=0.05)291).エクササイズ・トレーニングは,脂肪と総カロリーを制限した食餌療法に組み合わせることで,体脂肪以外の喪失を最小限にし,体脂肪の減少を最大にすることにつながる292).包括的リハビリプログラムへの参加を呼びかけた前向き研究では,393人中,わずか52人だけが参加した.参加に関して低調だったのは,女性(不参加者の26%,参加者の12%を占めた,p=0.02),失業者(不参加者の63%,参加者の45%を占めた,p=0.02),低所得や教育水準の低い層(p=0.001),身体機能が著しく障害されている場合(p=0.001)であった293).参加へのハードルをクリアできれば,優れた効果が期待できる.その効果は高齢者や女性にも拡大できる294),295).リハビリ開始時点では女性は男性に比べると一般的にハイリスクの背景をもち,身体機能も低い傾向があるが296),同様の適応性と完遂力を持っており,最大METSの比較で,男性が16%の増加であったのに対し,女性は30%増加していた(p< 0.001)297).貧困層の患者においても,いったんリハビリへの参加をすれば,そうでない層と比較して同等の回復を示していた298)

 CABG術後患者に限定した長期間の追跡研究には,標準的なケア(n=109)と標準的ケア+リハビリ(n=119)の2群に無作為に分けて追跡したものがある.5 年目の
時点で,症状,内服治療,運動能力,うつ病のスコアは両群とも同様であった.しかし,リハビリした患者では,運動のしやすさ(Nottingham Health Profile,p=0.005),健康感の改善(p=0.03),人生に対する満足度の向上(p=0.02)が見られた.術後3年目で就労していた割合はリハビリしていた患者でより多かった(p=0.02).この違いはより長期に経過をみていくと消失する299).CABG術後の心筋梗塞患者では,リハビリ後に運動耐容能が改善していた(リハビリ群で2.8± 1.4METSの増加に対し,しない群では0.8± 2 METs,p< 0.02).この改善は2年間続いた300)

 リハビリへの参加は健康の改善に加えて,経済的効果もある.冠動脈イベント(58%のイベントはCABG)後3年間の経過観察で,入院費用はリハビリ患者ではリ
ハビリしなかった患者と比べて739ドル安かった(1,197± 3,911ドルvs. 1,936 ± 5,459ドル,p=0.022)301)

 CABGの術後は,性行為を控える傾向にあり,心筋梗塞後の患者でその傾向は強い.内科医や外科医は再婚などの性的活動が他の日常生活同様安全であることについて,積極的にアドバイスすべきである302). 

 術前からの心臓リハビリテーションの有用性も示唆される.待機CABG患者に対して,無作為に手術5日前から心臓リハビリテーションをおこなった群と標準的ケアを行った群について調査したところ,心臓リハビリテーション群では,抜管までの時間は短く(p=0.05),術後の胸水貯留,無気肺が減少,肺炎の発症が有意に減少された(p=0.004).術後,退院までの入院期間も有意に短縮された(p< 0.001)303)

 まとめると,CABG術後患者は可能な限り,心臓リハビリテーションに参加すべきである.
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)