1 上行大動脈吻合
■ 上行大動脈に吻合された大伏在静脈の10年開存率はおよそ50%程度であるが,大伏在静脈を左前下行枝に吻合した場合の開存率は他部位への吻合の場合よ
り高い 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 上行大動脈吻合によって使用されるA-Cグラフトとしての橈骨動脈の開存性は大伏在静脈より良好である 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 高い流量が期待されるA-Cグラフトとして使用される場合でもradial arteryは狭窄の緩い冠動脈と血流競合を起こして閉塞する可能性がある 【ClassⅡ a,
evidence level B】.
■ 上行大動脈部分遮断下にグラフト吻合を行う場合は大動脈壁からのatheromatous emboli発生を回避させる注意が必要である 【ClassⅡ a,evidence level C】.
■ OPCABでは上行大動脈部分遮断を回避するためにいくつかの吻合用器具が開発されている.その有効性と信頼性に関しては今後の検討が必要である 【Class
Ⅲ,evidence level C】.
グラフト近位側の上行大動脈吻合が行われるグラフトは主としてRAとSVである.IEAも同様な使用法であるがこのグラフトに関する集積されたevidenceはない.
ITAやGEAもfree graftとしてA-Cグラフトで使われることもあるが例外的である.
SVGは大動脈-冠状動脈バイパス術として外科的冠血行再建術が導入された1970年代当初以来一貫してグラフトとして使用されており現在でも最も広く使用される
グラフトである.Inflowとしての中枢側吻合はほとんどの場合上行大動脈で大動脈-冠状動脈バイパス(A-C)のグラフトとして使われる.A-CグラフトとしてのSVの開存率はITAよりも低く10年でおよそ50~ 60%である184),186).動脈グラフトが多用され,長期開存性の良好なITA-LAD吻合が標準術式となった現在もはや比較のしよう
がないが,target vessel 別でみるとLADに吻合された場合は他部位に吻合された場合に比べて良好な開存率(10年で69%)が報告されている137).
RAはcomposite graftとしてinflowをITAとする使用法もしばしば用いられるが,A-Cグラフトとして上行大動脈に中枢側吻合が行われるのが一般的である.
A-Cグラフトとして使用される場合,RAとSVGのいずれが優れるかに関して最近の報告では同等とする報告179)もあるがRAのpatencyが良好であるとする177),190),217)ものが多い.
LITAに次ぐsecond graft の選択に関してRAとRITAを比較した報告もある218).LITA+RITAとLITA+RAの成績を比較したもので,術後morbidity,心事故率,心
死亡率いずれもRA使用例の方が低かったという.
A-Cグラフトで使用された場合であってもRAの特徴として狭窄程度の緩い冠動脈に吻合された場合はpatencyが低いことに注意しなければならない219),220).
RAをA-Cグラフトとして使うかLITA-RA composite graftで使うかは意見の分かれるところである.いずれの方法でもよいとする166),169)報告が多いが,血流競合
の影響を受けやすいRAはA-Cグラフトで使うべきとの報告もある168).
心拍動下に部分遮断鉗子を上行大動脈にかけてグラフトを吻合する上行大動脈部分遮断下吻合は体外循環を用いたCABGでは大動脈遮断を解除した後に心拍が再開した後に行うものであり心筋虚血時間の短縮になる.OPCABでは上行大動脈への吻合は常にこの方法となる.懸念される事柄は,遮断鉗子による大動脈壁の損傷によるatheromatous emboliであり,まれにではあるが大動脈解離を生じる危険性があることである.上行大動脈壁の性状を知るには術前に造影CTを行うのも一法ではあるが,術中にepi-aortic echoにより直接的に大動脈壁の性状を確認することが最も確実である.
体外循環を用いたCABGで大動脈遮断・心停止下の状態でグラフトの中枢側吻合を行う方法では,心筋虚血時間は延長するが大動脈壁には圧力がかかった状態で部分遮断鉗子をかける場合と異なり,壁損傷の危険は少ない.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)