3 患者リスク評価法の選択
 現在,我が国においてはデータベースが確立しておらず,患者リスク解析法も検証されていない現状では,前述の6 種類の方法を各施設の特徴を加味した状況で選択することになるが,世界的にはスタンダードとされるSTS risk algorithmか,Euro SCOREかに選択の目が注がれる.この選択に際しての最近の報告がある.

 ≪A≫The Society of Thoracic Surgeons(STS) の推奨する分析方法に関するもの:STSに登録されたNational Adult Cardiac Surgery データベースからの解
20):1997年から1999年までの503,478例を対象に用い,術前のリスクに関しては単変量解析スクリーニングにて30変数を抽出,術後のリスクに関しては多変量回帰分析で7変数を抽出し,CABGに限った術後30日以内のRisk-adjusted Operative Mortality(ROM)とRisk-adjusted Morbidity(ROMB)を算出している.この結果,
ROMBとROMの両者を併用することは外科医チームが患者管理の質を評価したり,改善点を得るための情報に大きく貢献することを指摘しているが,同時に,外科的
深部感染症や再手術に関してモデル識別性が低いとも指摘している.

 ≪B≫The European System for Cardiac Operative Risk Evaluationに関するもの:The Society of Thoracic Surgeons(STS) に登録されたNational Adult Cardiac SurgeryデータベースをEuro SCOREで検討した結果647),単独CABG症例の術後30日以内のmortaityを予測する上では正確であると結論付けている.さらに,ハイリスク患者の評価にはlogistic Euro SCOREはヨーロッパにおける心臓手術のリスク評価のスタンダードであるadditive Euro SCOREよりも正確であることが指摘されている652).前述のごとく各国独自のリスク評価が理想であるが,早期実現可能な可能性の1 つとして,Euro Score のvalidationという手段がある.元々Euro Score はCCABのリスク評価として開発され,詳細がすべて無料で公開されている.2005年, オーストラリアではCCAB症例2,106例の前向き研究で,Euro Score 各危険因子をオーストラリア独自の基準で分析し直し,CABGリスク評価の臨床応用を開始している.ただし統計学的には2,106例の症例数をもってしても不足であり,さらなる症例登録をオーストラリア全土で進めている661).我が国においても可及的早期に全国共通の各危険因子を登録して前向き研究を行い,Euro Score のvalidationを行うことが,最も早期実現可能な日本人に適合したCABGリスク評価であろう.
次へ
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)