1 CABGの経済効率ガイドライン化における問題点
1)国による違い
 CABGの経済効率を考える場合,evidence level Aに属するような論文(例えば欧米におけるCABGとPCI の多施設無作為割付比較試験の論文)から経済効率の比較データを求めることには限界がある.我が国とは保険制度,診療報酬の額,薬剤や医療材料の価格差,doctor’s fee(surgeon’s fee)の有無,などに極めて大きな違いがあるからである.ACC/AHAのガイドラインの和訳ではなく“我が国における独自のガイドライン”を標榜する本ガイドラインでは我が国におけるデータの呈示に
とどめたい.

2)一国二制度
 平成17年度現在,我が国では特定機能病院82病院と一握りの試行的適用病院ではDPCによる包括払い制度が適用されており,出来高払い制度とともに2つの制
度が混在している.したがって,経済効率につき一律に論じることは不可能であるが, 
  (1) DPCによる包括払い制度は今後徐々に拡大されるであろうこと
 (2) DPCにおける診療報酬設定は出来高払い制度との関連のもとに行われていること
 (3) 循環器疾患では出来高払いの占める割合が平均で約50%と他の領域に比較して明らかに大きいこと
 (4) DPCは医療の標準化のためのデータ収集をも目的としており全国的なデータが出来高払いのデータよりも集めやすいこと
などから,本ガイドラインではDPCデータの呈示を中心としたい.

3)変化のサイクルの早さ
 診療報酬制度は2年に1度改訂が行われる.このガイドラインに記載されるデータも早くも平成18年度改訂により影響を受け大きく変化する可能性が高い.

 また,PCI に用いられるデバイスの進歩に代表されるように,使用されるデバイスの種類や価格,その位置づけは極めて短期間に更新される.したがって“逃げ水”
のような対象に対してガイドライン化を試みているような面もある.一方,CABGについてはPCI に比べると変化の速度は比較的ゆっくりであり,平成16年の時点で
我が国におけるOPCABの割合が60%を超えていることから,CCABとOPCABの経済効率を比較するにはいいタイミングである.

4)データの乏しさ
 支払い用ツールとしてのみならず管理ツールとしての重要性もアピールされているDPCであるが,せっかく得られた膨大なデータの解析はマンパワーの量的かつ質
的な決定的不足などにより“宝の持ち腐れ状態”にある.今回ようやくその一部の提供を受けたものの,解析は遅れており,平成15年度のデータの提供を受けるのが
やっとで平成16年度のデータの解析結果を得ることはできず,したがって年度の違いによる比較にまでは至らなかった.したがって,PCI との比較でCABGの経済効
率を論じる場合に必須と思われるDrug eluting stent(平成16年9 月導入)の影響のデータも残念ながら公式には得られていない.さらに,病院の経営母体に関し,特定機能病院以外との比較データも不十分にとどまっている.これらに対しては民間の調査機関が独自に集計解析したデータを補足的ではあるが一部呈示するにとどめる.
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)