1 はじめに
 冠動脈疾患におけるインターベンション治療の適応ガイドラインが2000年に我が国で初めて作成・公表された.それはCABGを含むもので,待機的インターベンションの適応に関するものであった.その後,2006年の「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン」を含めて虚血性心疾患の包括的対策,すなわち虚血性心疾患の一次予防,診断と病態把握,治療法,二次予防の対策-「ガイドライン」-が整備されてきた.

 冠動脈疾患治療の一翼を担うインターベンション(CABGを含む)については,2000年の「冠動脈疾患におけるインターベンション治療の適応ガイドライン(冠動脈バイパス術を含む)-待機的インターベンション」以来既に10年が経過し,この間の冠血行再建術(PCI,CABG)の急激な変化と進歩の現実に照らして改訂の必要性が認識され,2009年に日本循環器学会において作業が開始された.その過程で,2006年に公表された「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン」も含めて,冠血行再建術を体系的に再構築したガイドラインを整備することが提案され,次のような構想が合意された.すなわち,総論としての基本的認識として冠血行再建術がもたらす効果と不利益,PCIとCABGの多面的比較,そこから導かれるPCI とCABGの選択基準を論じることとし,それぞれの治療法の実際については各論として個別のガイドラインの中で詳述する,というものである.PCI については2000年のガイドラインの改訂版としての「安定冠動脈疾患における待機的PCI
のガイドライン」を,CABGについては2006年版「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン」の改訂版(2010年度 日本循環器学会)と
整合性を十分持たせて充当することとなる.本ガイドラインで取り上げるのは安定冠動脈疾患であり,急性期疾患は除外される.

 2010 年にESC(European Society of Cardiology)とEACTS(European Association for Cardiothoracic Surgery)が共同して作成した冠血行再建術のガイドラ
イン1)では,冠動脈疾患治療に際しては一般内科医とPCI 施行医,心臓外科医がハートチームとして共同することの重要性が強調されている.今後は我が国でも冠
動脈疾患はハートチームによる治療へと進むことが予想される.この潮流に従い,今回のPCI,CABGガイドラインにおける総論部分となるステートメントとその解説文
および冠血行再建術適応は,日本循環器学会,日本心臓病学会,日本冠疾患学会,日本心血管インターベンション治療学会,日本心臓血管外科学会,日本胸部外科学会,日本冠動脈外科学会,日本糖尿病学会から選出された内科医・外科医・糖尿病専門医のメンバーで構成される「冠動脈血行再建協議会」で共同討議し作成した.
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)