8 多枝病変に対するPCI とCABG (ステートメント5)
Hlatkyらの12編のランダム化試験を統合した7,812人(左前下行枝近位部病変51%,2 枝病変63%,3枝病変37%,糖尿病合併16%)のメタ解析の結果では,DES
を使用しないPCI はCABGと比較して観察期間6年間において再血行再建術は高いが,生命予後,心筋梗塞発症率は差を認めていない19).しかしSYNTAX試験のサブ解析では,3 枝病変患者では生命予後,心筋梗塞発症の予防,再血行再建術の回避のすべてにおいてCABGはDESを使用したPCI よりも良好であった. また
SYNTAX scoreの低い3枝病変では,PCI とCABGの間に生命予後,心筋梗塞,脳卒中発症に有意差はなかったのに対し,SYNTAX score の高い病変ではCABGの方が良好であった.これらのデータを参考に2010年8 月に発表されたESCとEACTS共同のガイドライン1)ではCABGは3枝病変に対し奨励クラスⅠエビデンスレベ
ルAであり,PCI はSYNTAX score22以下では奨励クラスⅡa,23以上の複雑3枝病変は奨励クラスⅢとされている.
実際の臨床現場での左主幹部病変を除いた多枝病変に対するPCI とCABGの成績を比較した観察研究としては国内のCREDO-Kyoto研究20),アメリカ・ニュー
ヨーク州レジストリー研究21)がある.5,420人(左前下行枝近位部病変80%,2 枝病変49%,3枝病変51%,糖尿病合併46 %, 慢性完全閉塞病変40 %) を対象
としたCREDO-Kyoto研究の報告では,DESを使用しないPCIはCABGと比較してリスク補正後の死亡率はCABGと比較して高い傾向にあり,糖尿病患者,低心機能患者においてはPCI の方がリスク補正後の死亡率が有意に高値であった.ただし著者らは75歳以下の患者で検討すれば,両群間に差がなかったと結論している.また17,400人(左前下行枝近位部病変52%,2枝病変56%,3枝病変41%,糖尿病合併38%)を対象としたアメリカ・ニューヨーク州レジストリー研究もDESを使用したPCIと比較してCABGは再血行再建率が低く,リスク補正後の心筋梗塞発症率,死亡率も低かった.また3 枝病変,2枝病変,80歳以上の高齢者,低心機能患者のいずれのグループにおいてもCABGの方が心筋梗塞発症率,死亡率は低かった.CREDO-Kyoto研究においても左主幹部病変も含めた多枝病変6,327人で再解析した結果,観察期間3.5年でPCI はCABGと比較してリスク補正後の死亡率,心筋梗塞発症率,再血行再建率が高いことを報告した22).糖尿病患者,低心機能患者,左
前下行枝近位部病変,高齢者(75歳以上)に限って解析してもPCIはCABGと比較して死亡率が高かった.一方脳梗塞発症率はPCI の方が低いが,オフポンプ手術に限定して比較すると差を認めなかった.
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)