1 左内胸動脈(LITA)
■ 左前下行枝の血行再建には左内胸動脈を第一選択とするべきである 【ClassⅠ,evidence level B】.
■ 左内胸動脈-回旋枝バイパスは,左内胸動脈-前下行枝バイパスより成績が劣る 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 左内胸動脈のskeletonizationはグラフト長,流量を増加させる 【ClassⅡ a,evidence level B】.
左前下行枝(LAD)への左内胸動脈(LITA)を用いた血行再建は,静脈グラフトと比較して短期・長期開存を保ち,生存率・心事故回避率においても優れた成績を
もたらす65)-72).術後5年以降で静脈グラフトの開存率が低下する一方,LITAは90%以上の開存率を保ち65),生存率・心事故回避率も10年から20年にわたって静脈グラフトより明らかに優れることが報告されている66),67).我が国においても術後10年でのLITA-LADバイパスの良好な成績の報告があり68),LITA-LADを第一とする選択に疑う余地はない.またRITA-LADバイパスはLITA-LADバイパスと同等の成績を示すとの報告もあるが73)-75),その他のグラフトでLITA-LADバイパスを凌駕するものはなく,LITA-LADバイパスは冠動脈バイパス術におけるgold standardといえる.
このため,LITAをLAD以外に使用した際の成績の報告は少ない73),76).1,482例のLITAグラフトの検討で,術後平均79か月でのLITA-LADバイパス開存率が97.2
%であったのに対し,LITA- 回旋枝(LCx)の開存率は91.0%と低く,LCxへの吻合はLITA閉塞危険因子であると報告されている73).したがってLITA-LCxバイパスの如く,LITAをLAD以外へのグラフトとして用いる際は,単独ではなくRITA-LADバイパスと併せて使用される際に有用であると思われる76).
近年,LITAの採取法としてのskeletonizationが着目されている77),78).連続200例の検討で,skeletonized LITAは,長さが4cm,流量が30%増加し,早期開存率も99.6%と非常に良好な成績が報告されている77).本法で最も懸念される,グラフト損傷や攣縮に関しても,従来の採取法と有意差がないとされ79), 特に超音波メス(Harmonic Scalpel)を用いた採取法の安全性は広く認識されている80). 今後, 動脈グラフトの多用化とOPCABの普及が加速する中で,sequential graftingの必要性は高まり,本法でのLITA採取はグラフト長を確保する意味でも大変有用と思われる.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)