3 右胃大網動脈(GEA)
 
■ 右胃大網動脈は右冠状動脈領域に対する動脈グラフトとして,他の動脈グラフトの成績と比較して概ね遜色はなく,有用である 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 右冠状動脈領域に対するグラフトとして,右胃大網動脈と大伏在静脈は長期予後の点で同等である 【ClassⅡ a,evidence level B】.

 CABGにおける第3 のin-situ arterial graft としての右胃大網動脈(GEA)は1987 年に初めて報告された115),116).in-situ RGEAはどの領域にも吻合可能である
が,主な標的冠動脈は右冠動脈(RCA)となる.標的冠動脈ごとの系統的な長期成績の報告はない.GEAの術後早期ならびに長期成績は,GEA吻合部位の大多数
がRCA領域である報告から得られたものとなる.術後早期開存率は,88~ 100%と良好な成績が報告されている84),117)-129).3年以上の長期開存率の報告は少なく,3年で91.1% 117),5年で80.5~ 84.4% 117),130),131),10年で62.5~ 66.5% 130),132)と報告されている.

 RCA領域へのバイパスにおけるGEAと他の動脈graftとの成績を比較すると,右内胸動脈(RITA)は5年開存率が83% 133)との報告がある一方,開存率は示されて
いないが,RITAと右冠状動脈末梢分枝との吻合は避けるべきとの報告も存在し134),RITAとGEAの比較において見解は一致していない.橈骨動脈(RA)は,5年
開存率が73~ 83% 133),135),136)と報告され,RAとGEAは同等の成績を有するものと考えられる.5 年開存率ではGEAが大伏在静脈(SVG)に勝ると報告されている131).RCAに吻合したSVGの10年開存率は56%と報告されているが137),10年開存率をGEAとSVGとで比較した報告ではSVGが若干勝っていた130).また臨床上GEAを選択する優位性がなかったとの報告もある138),139).SVGとGEAの長期成績の比較において見解は一致していない.冠状動脈病変の狭窄度はGEAの開存に影響を与える.これは,GEAは腹部大動脈の第3分枝で内胸動脈に比べ10~ 15mmHg血圧が低いため,冠状動脈の狭窄が中等度である場合には,グラフトからの血流と冠状動脈からの血流が競合する,いわゆるcompetitive flowが起こりやすいとされている.このとき,GEAのshear stress が低下し,NOなどの血管拡張因子放出が減少することでconduit failureを来たす可能性が指摘されている140),141).一方で,標的冠状動脈の狭窄度が60~70%以上の時にはcompetitive flowが起こりにくく,良好なグラフト機能と,smoothな内腔が維持され,グラフト開存率が良好であると報告されている131),142).GEAはITAとは異なり収縮性に富みvasospasmを起こしやすい欠点を有している.Harmonic Scalpelを用いたskeletonization法によるGEA採取は,vasospasmを軽減し,グラフトの長さをより長く確保でき,大きな血管径を有する部位の吻合を可能にする,安全な採取方法である143)-146).これによりcompetitive flowを回避しGEAの長期開存率の向上に寄与する可能性がある.composite graftのblood sourceとしてのin-situ GEAの成績129),147)-150)や,free graftとして使用した場合の開存性126),151),152)については,報告が十分でなく,一致した見解には至っていない.
 
 
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)