5 橈骨動脈(RA)
■ 橈骨動脈を左前下行枝以外の冠状動脈に使用した場合の開存率は,内胸動脈等,他の動脈グラフトと同等である 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 橈骨動脈の血流供給源として中枢側をin-situ ITAと吻合した場合と,大動脈と吻合しA-Cバイパスとした場合のグラフト開存率に有意差はない 【ClassⅡ a,
    evidence level B】.
■ A-Cバイパスとして使用した場合,RAはSVGより開存率が高い 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 冠状動脈枝の狭窄が中等度である場合の橈骨動脈グラフトの開存率は不良である 【ClassⅡ a,evidence level B】.

 CABGにおけるRAの開存率に関しては術後3か月~5年で93~98.6%と良好な成績が報告されている164),165).他方,末梢吻合部位または冠状動脈別に術後成績を比較した報告は少なく,十分なevidenceには至っていない.in-situ ITAをRAの中枢側吻合部とした, いわゆるcomposite graftとして使用した場合と,大動脈を中枢側吻合部としたいわゆるA-Cバイパスとして使用した場合の比較では,特に有症状の症例では,グラフトの開存率に有意な差はないと報告されている165)-169).RAをcomposite graftとして使用した場合,到達可能な領域が広がるため,ITAとRAのみでも多枝血行再建・完全血行再建が可能となる166),170),171).RAのGraft failureのRisk factorとして,NYHAⅠまたはⅡ,吻合した冠動脈枝のかん流域が小さいこと,または狭窄度が70%以下である点が指摘され172),特に右冠動脈の狭窄が60~ 70%以下の場合は開存率が低いとする報告は複数存在する166)-168).LADへのITAバイパスを第1としたとき,動脈グラフトの2番目の選択肢としてのRITAとRAとを比較すると,両者には中期までの生存率やイベントの発生に差がなく,むしろ周術期の出血や胸骨感染はRITAのほうで多かったとする報告もある173),174).このことは,RA採取に重篤な合併症のリスクを伴わないことによるものであり,両側内胸動脈採取が躊躇されるようなハイリスク例において第2の動脈グラフトとして有用なoptionになり得ると考えられる.RAとSVGとを比較した文献中,十分なevidenceを有すると判断された12編の検討では,RAはSVGより術後早期および遠隔期の開存率が優れており,術後10年での開存率に関してはRAが50~90%,SVGが30~50%であった175),176).他方,RAの使用は術後早期および遠隔期のmortalityとmorbidityともに有意に減少させるとの報告もある177).逆に,RAはSVGより開存率が劣ったとの報告もある178),179)

 RA使用に伴う合併症であるしびれや感覚障害の頻度は術後経時的に減少し,3か月以降では6.5%以下と報告された180)が,何らかの訴えの頻度および継続期間はこれを大きく上回るとされる181).RA採取時の超音波メス(Harmonic Scalpel) の使用や,Allen testに対するEchocolor doppler使用の優位性の報告もある182),183)
 
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)