1 中枢側自動吻合器
 中枢側自動吻合器は上行大動脈部分遮断などの鉗子操作により生じる脳梗塞を軽減させ,短時間での確実な吻合を目的として開発されてきた.2000年に初めて臨床応用されたSt Jude Medical 社から販売されたSymmetry Bypass System(St Jude Medical,Inc.Minneapolis,Minn)は,最初にスイスのグループにより43人の患者において65 吻合に使用されその有用性が報告されたが196),666),全世界で臨床使用を重ねるごとに,早期吻合部閉塞を含め様々な合併症が増加してきた667)-669).自動吻合器の早期閉塞の原因として,吻合部内膜にNitinol金属の露出が多いため,反応性に吻合部に内膜肥厚が生じるという説や,このdeviceでは吻合口が使用するSVGの血管径に比べ小さくなるため吻合部閉塞しやすくなること,さらに大動脈に対しSVGが直角になるため,吻合位置により屈曲し閉塞しやすくなるなどと考察されている667),670).いずれにせよ早期閉塞率が15%前後と極めて高いために2004年12月以後,製品は製造販売中止となっている.Symmetry Bypass Systemの欠点を改善する自動吻合器として現在日本で使用可能な自動吻合器は,吻合部内膜に金属の露出を来たさないように改良されたPAS-PORTTM system(Cardica,Inc.Redwood City,CA)と手縫いと同様な吻合機序を取り入れ,U-clipによる結節縫合を自動的に行うSPYDERTM(Medtronic,Inc.Minneapolis,Minn)2種類がある.このPAS-PORTTM systemについては,わずか24例ずつの症例ではあるが,前向き無作為試験を行い,手縫いと比較して6 か月後の吻合部合併症が多かったと結論づけている報告 と,術後6か月での開存率は98%と良好で,中枢側吻合器を使用した95.8%で1年間心事故を認めなかったとする報告 とで見解が一致していない.

①自動吻合器使用の適応


 (1)SVGの性状:グラフト材料としては基本的にSVGのみが使用可能である.使用可能な血管径についてはSymmetry Systemの使用時のときの問題でもあったが,血管径は4.5mm以上が良いとされている670).やはり小口径を使用した際は吻合部からの出血や吻合部早期閉塞が生じる可能性が高まる.
 (2)上行大動脈の性状:手縫いと異なり鉗子操作の必要性がないとはいえ,やはり大動脈の石灰化が強い症例や,内膜の粥状硬化が強い症例は使用を避けるべきである.また大動脈壁が5.5mmを超える症例では自動吻合器の構造から十分に吻合金属が大動脈にかからず出血の原因となる可能性があり使用には注意を要する670).それでもなお,SVG以外に使用できるグラフトがない場合は術前の胸部CTや,術中の大動脈エコーで十分その性状を吟味してから使用することが望ましい.
 (3)ターゲット冠動脈:自動吻合器の長期成績の報告がない以上,前下行枝,右冠状動脈近位側などの重要血管への使用は極力避けたほうが良いと思われる.
 (4)術後抗凝固療法:吻合部に金属が露出することになる以上,カテーテル時のステント留置後に準じた抗凝固が必要だと考えられ669).やはり早期の閉塞を避け
る点からも場合によってはワルファリンを中心とした強力な薬剤投与が考慮されるべきである.
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)