1 治療適応
TMLRの最もよい適応は,薬剤抵抗性の狭心症患者でかつPCI やCABGなどの血行再建術が不可能な症例である.TMLRの臨床使用に関するガイドラインについ
ては,2003年に米国胸部外科学会Society of Thoracic Surgeons(STS)がその詳細についてレビューしている685).このガイドラインシリーズでのTMLRの治療適応は様々な臨床治験から得られたもので686)-691),その適応は大きく(1)TMLR単独療法に関する勧告,(2)CABGに併用して行うTMLR療法に関する勧告の2つから成り立っている.またこの勧告はACC/AHA分類クラス,クラス評価におけるevidence levelにより分類されている.以下にその要旨を示す.
■ TMR単独療法に関する勧告 (Recommendation for Transmyocardial Revascularization as Sole Therapy)
【ClassⅠ】
1. 左室駆出率が30%を超え,CCS重症度分類Ⅲ度あるいはⅣ度の最大限の内科治療にも抵抗する狭心症症例.左室自由壁に可逆的な虚血があり,その虚血領
域に対応する冠状動脈病変が存在すること.心筋全領域で(1)高度びまん性病変,(2)完全血行再建に適したバイパス標的病変がない,もしくは(3)完全血行再
建に適したバイパスグラフトがない,等の理由でCABGやPTCAが不可能な症例に限る 【evidence level A】.
【ClassⅡb】
下記の条件以外はClassⅠの適応条件を満たす症例
a. IABPの挿入の有無にかかわらず左室駆出率が30%を下回る症例 【evidence level C】
b. 抗狭心症剤の静脈内投与を必要とする不安定狭心症もしくは急性虚血症例 【evidence level B】
c.CCS重症度分類Ⅱ度の狭心症例 【evidence level C】
【ClassⅢ】
1. 狭心症のない症例,あるいはCCS重症度分類Ⅰ度の狭心症例 【evidence level C】
2. 進展しつつある急性心筋梗塞,もしくは最近の貫壁性あるいは非貫壁性心筋梗塞 【evidence level C】
3. 収縮期血圧80mmHg未満, あるいは心係数1.8 L/min/m2未満で定義される心原性ショック 【evidence level C】
4. コントロール不能な心室性あるいは上室性頻脈性不整脈 【evidence level C】
5.非代償性のうっ血性心不全 【evidence level C】
■ CABGに併用して行うTMLR療法に関する勧告(Recommendations for transmyocardial revascularization as an adjunct to coronary artery bypass)
【ClassⅡ a】
1. 下記のいずれかの理由でバイパス不能な冠状動脈病変を有し, 心筋壊死に陥っていない虚血領域でTMLR可能な領域が少なくとも1 か所あるCABG適応の
狭心症症例(CCS重症度分類Ⅰ~Ⅳ度).(1)高度びまん性病変,(2)完全血行再建に適したバイパス標的病変がない,もしくは(3)完全血行再建に適したバイ
パスグラフトがない 【evidence level B】.
【ClassⅡb】
下記のいずれかの理由でバイパス不能な冠動脈病変を有し,心筋壊死に陥っていない虚血領域でTMLR可能な領域が少なくとも1 か所あるCABG適応の狭心症のない症例.(1)高度びまん性病変,(2)完全血行再建に適したバイパス標的病変がない,もしくは(3)完全血行再建に適したバイパスグラフトがない 【evidence level C】.
【ClassⅢ】
CABGの非適応症例 【evidence level C】
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)