3 TMLR後の危険因子
TMLR後の予後を左右する因子は,(1)不安定狭心症,(2)心筋全体の虚血,(3)左室機能低下が挙げられる.
①不安定狭心症
他施設共同研究や無作為試験の結果から,不安定狭心症例は有意に慢性狭心症例より周術期死亡率が高く689),693),適切な患者選択がTMLR急性期の死亡率を左右する重要な因子であると考察している.
②心筋全体の虚血
術後の死亡率に関係する多変量解析による因子検討では, 解剖学的心筋灌流指数(anatomic myocardial perfusion index:AMP)が有意な危険因子であり694),また,冠状動脈主要3領域に開存するバイパスグラフトがない症例や,自己冠血流のない症例が最も死亡率が高いと報告されている695).
③左室機能低下
我が国の多施設共同研究でも患者登録において,左室駆出率(EF)の下限が30%に設定されていたように低左心機能症例はTMLR術後合併症の危険因子となり得る696).左室機能不全例,血行動態不安定症例,心機能予備能低下症例ではTMLR後の死亡率が高いことが報告されている697).特にEF 35%未満の症例では周術期血行動態が不安定となりIABPを必要とした症例が多く,このような症例に対しては予防的IABPの使用や,早期IABPの使用が推奨される.
TMLRは様々な前向き無作為割付でその有用性が証明され,ガイドラインに従った臨床使用可能な治療法であり,最近では5年以上にわたる長期経過観察を行った
報告もある698).近年のOPCABなどの低侵襲手術や,細胞移植治療や血管新生療法との併用によりさらなる利用効果が見込まれる治療法である.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)