4 呼吸機能低下
■ 慢性閉塞性肺疾患例に対しては,人工心肺使用を回避することは手術リスクを軽減する 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ MIDCABは,慢性閉塞性肺疾患例において,術後呼吸機能保持に有効である 【ClassⅡb,evidence level C】.

 冠動脈疾患に合併する肺疾患で最も頻繁に遭遇するのは慢性閉塞性肺疾患(COPD)である.COPDの合併はCABGによる死亡率や罹患率に影響を与える重要な因子であるが,COPDを合併した虚血性心疾患患者にCABGを行うことはCABGを行わないよりも自然経過からみて良いと考えられている395).手術死亡や術後の
合併症の危険率はCOPDの程度により異なり,COPDの程度が軽度であれば心臓手術に十分耐え得るが,中程度~高度COPDでは死亡率や合併症率が高くなる.これはCABGを行う際に人工心肺を用いることが肺機能に悪影響を与えることが原因とされている.人工心肺を使用することは補体活性の助長,肺毛細血管床への好中球の遊離,酸素由来のフリーラジカルの放出,さらに肺胞のサーファクタントの組成の変化により肺胞の安定性を乱すことで肺障害に関与するとされている396)-398).COPD合併例に対してCABGを行う際,人工心肺の使用の有無による術後急性期および2か月後の呼吸機能についての比較検討を行った研究で,OPCAB群で有意に早期抜管およびICU早期退室が可能であり,2か月後の1 秒量が人工心肺使用群で術前値より有意に低かったと報告し,COPD患者についてはOPCABが術後の呼吸機能の回復に関しては優っているとしている.さらにこの研究では胸骨正中切開を用いないMIDCABではこの傾向がさらに際立っていると報告している399).別の研究でも同様にCOPD患者にCABGを行う際,人工心肺の使用の有無による術後急性期について比較検討を行っているが,OPCAB群で有意に術後出血が少なく早期抜管およびICU早期退室が可能であり,COPD患者については人工心肺を使用しないことで術後の経過を良くするとしている400).CABGを行う際にITA使用群とSVGのみ使用した群での術後の呼吸機能を比較検討した研究では,ITA使用群で術後の呼吸機能が有意に悪化したと報告されている401).しかしながらCOPD合併例に対してCABGを行う際にITAの使用が及ぼす影響について比較検討を行った報告はない.

 COPDを合併した冠状動脈疾患患者に対するCABGを行う際には人工心肺を用いないで行うことで術後経過を改善する可能性がある.
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)