5 腎不全
■ 慢性腎不全に対しては,人工心肺使用を回避することは周術期合併症リスクを軽減する 【ClassⅡb,evidence level C】.
我が国では現在,様々な原因で20万人余りが維持透析を受けており,患者数が増えているばかりでなく,高齢化も進み,透析期間も長期化している.透析患者の死
因の過半数は循環器疾患であり,特に虚血性心疾患が重要である.人工透析を行っている腎不全患者に対する人工心肺を用いたCABGは,腎機能障害を伴わない患者と比較すると高い死亡率や罹患率を呈し,死亡率で3.1倍,縦隔炎2.4倍,脳梗塞が2.1倍と報告されている402).腎機能障害はCABG術後に悪影響を及ぼす独立した予測因子であることが知られている402)-405).この傾向は人工透析には至らない腎機能障害患者に対する人工心肺を用いたCABG患者に対しても同様である.人工心肺の使用により糸球体濾過と尿細管機能に悪影響を与えることが非透析腎不全患者にとって負の因子とされている406),407).
CABG術後急性期成績については非透析患者と比較すると透析患者で悪いことが報告されているが,一旦手術を行い退院した後の中期遠隔成績を比較した研究で
は,心臓病に関するイベントでは両群間に差はないというデータも報告されている408).
腎不全患者に対してはOPCABを選択することはCCABと比較すると良い結果であるとの報告がなされている405),409)-413).しかしながら,多くは術後ICU滞在日数,在院日数,挿管時間,輸血量などに有意差が出ているものの遠隔成績の報告はなく,人工心肺使用の有無での手術死亡に有意差があるといった報告もないのが現状である.その一方でOPCAB術後患者を腎不全患者と非腎不全患者の二群に分けて比較した研究では,術後急性期成績に両群間で差がみられなかったという結果も報告されている406),407).
CABG術後良好な急性期および長期予後を得るにはバイパスグラフトの良好な開存性が重要となる.特に維持透析患者ではSVGの劣化が速いことは,動脈グラフ
トを使用する根拠であるが,維持透析患者に対してCABGを行う際のグラフト選択に関してSVGのみでバイパスを行うより動脈グラフトを使用した方が急性期および遠隔成績を向上させるとことを証明した研究報告はなされていない.一般に,RAを使用することは禁忌であり,また,一方で透析患者では術後に縦隔炎の合併が多いことよりITAの使用がためらわれる.透析患者におけるITA使用の有無と創部治癒の関係を検討した研究では,SVGのみの群とLITA+SVGの群で両群間に術後有意差はなかったと報告されている414).さらに,BITA使用群とLITAのみ使用した群を比較した研究でも術後の創部治癒に有意差を認めなかったという報告もなされている415).統一した見解には至っていないが,遠隔成績向上のためLITAあるいはBITAを使用しても創部治癒に影響しない可能性がある.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)