6 脳血管障害
■ 術前脳梗塞の既往は,高齢とともに周術期脳障害発症のリスクであり,特に上行大動脈からの粥腫塞栓を回避できるような術式を選択するべきである【ClassⅡ
a,evidence level B】.
■ 術中上行大動脈上エコー,経食道心エコー,あるいは触診によって,上行大動脈に高度な粥状硬化が認められた時は,上行大動脈を遮断しない手術方法に術式を
変更することが,術後脳血管障害の発症を防ぐ可能性がある.その術式の中にはOPCABも含まれる【Class Ⅰ,evidence level C】.
■ CABG後の,再発するあるいは24時間以上持続する心房細動では,4週間のワルファリンによる抗凝固療法が適応になる【ClassⅡb,evidence level C】.
■ 最近の前壁心尖部梗塞で,CABG後も壁運動異常が持続する場合は,長期(3~ 6か月)の抗凝固がおそらく必要である【ClassⅡ a,evidence level C】.
■ 左室血栓の有無によって手術方法や手術時期が変わる可能性があるので,最近の前壁梗塞の患者では,心エコーによる左室血栓のスクリーニングが考慮される
べきであろう【ClassⅡb,evidence level C】.
■ 以下のような患者はおそらく頚動脈スクリーニングの適応となる.65歳以上,左主幹部病変,末梢血管病変,喫煙の既往,一過性脳虚血または脳梗塞の既往,頚
動脈雑音の聴取【ClassⅡ a,evidence level C】.
■ 症状を伴う頚動脈病変がある患者,または症状がなくても片側あるいは両側に80%以上の頚動脈病変がある患者は,CABGの前にあるいは同時にCEAまたは
CASを行うことが推奨される【ClassⅡ a,evidence level C】.
■ CEAまたはCASは下述の危険性で手技が可能なチームによってされるべきである.
無症候性頚動脈病変の場合は死亡・脳梗塞合わせた発症率が30日で3%以下
症候性頚動脈病変の場合は死亡・脳梗塞合わせた発症率が30日で6%以下【ClassⅠ,evidence level A】
■ 頚動脈血行再建の適応については,神経内科医を含めた多職種チームでここの症例について検討し決定するべきである【ClassⅠ,evidence level C】.
■ CEAは現在でも頚動脈血行再建の標準術式である.しかしながらCEAまたはCASの選択は多職種チームで検討されるべきである【ClassⅠ,evidence level B】.
冠動脈バイパス術に伴う脳血管障害は,術後合併症の中でも最も重篤な合併症の1つである.冠動脈バイパス術を受けられる患者のおよそ3 分の1の患者には頭頚部血管病変が存在し,また上行大動脈の動脈硬化が進んでいる患者も多く,脳血管障害の発症の大きな要因となっている.また一旦発症すると入院期間の延長,医療費の増加につながり,それよりも早期だけでなく,長期の予後にも大きな影響をおよぼす.そのために冠動脈バイパス術に伴う脳血管障害をいかに防ぐかがこのテーマの趣旨である.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)