2 冠動脈バイパス術後脳血管障害の原因
 独立危険因子はそれぞれのタイプで明らかにされている24).どちらのタイプにも共通する危険因子として高齢(特に70歳以上),高血圧症またはその既往が挙げられる.

 タイプ1 障害の危険因子は,上行大動脈の粥状硬化(外科医による手術室での評価)(オッズ比[OR]4.52),脳梗塞の既往(OR 3.19),IABPの使用(OR 2.60),糖尿病(OR 2.59),高血圧の既往(OR 2.31),不安定狭心症の既往(OR 1.83),そして年齢(OR 1.75/10年上るごと)であった.周術期低血圧と左室ベントの使用
はタイプ1 障害との関連は弱かった.

 上行大動脈の粥状硬化はCABG後脳梗塞の最も強い危険因子だと報告されており,このことは手術操作中の粥状片の遊離がこの合併症の主たる原因であるという考えを裏付けるものである25)

 タイプ1 障害の中で,early strokeとdelayed strokeで危険因子は異なると考えられている.early strokeの原因として,上行大動脈に対する送血管のカニューレーシ
ョンや遮断などの手術操作による粥状片による塞栓症,体外循環による低血圧や低灌流等がある.またdelayed strokeの原因は,心房細動による血栓,低心拍出による左室内血栓,出血や外科侵襲による過凝固状態が主であるとされている421).過去の脳梗塞の既往や糖尿病の合併もタイプ1 障害の予測因子である.これらは脳血流の予備能の低下,中枢神経系の血管運動自動調節機構の低下,あるいはびまん性動脈硬化を持つ患者の指標になり得る.IABPの必要性な患者は粥状塞栓の危険性を持つ場合が多く,またIABPはしばしば全身循環障害の患者に必要になり,どちらもCABG後脳梗塞の原因になり得る.左室ベントあるいは送血回路に空気が入る可能性のある他の器具の使用が術後脳梗塞に関係しているという事実は,その原因として空気塞栓も示唆され,それを防ぐためにはそれらの器具を挿入する際に繊細な手技が要求される.

 タイプ2 障害の予測因子として飲酒歴,不整脈(心房細動を含む),高血圧,CABGの既往,末梢血管障害,心不全が含まれる.上行大動脈硬化がタイプ2障害にはあまり強い予測因子ではないため,脳症的変化は微小塞栓だけでなく微小循環にも関係していると思われる.またそれ以外に全身炎症反応,脳血流の変化,低血圧,急性貧血,脳含水量の変化,低酸素,低体温,低・高血糖,免疫機能の低下などが原因になり得るとされている.

 
次へ
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)