2 虚血性僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する僧帽弁手術の適応
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■ CABGを行う患者において,重度僧帽弁閉鎖不全症を伴う場合は僧帽弁手術を同時に行うべきである 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ CABGを行う患者において,中程度僧帽弁閉鎖不全症を伴う場合は僧帽弁手術の同時施行が望ましい 【ClassⅡb,evidence level C】.

 CABGを行う患者において,僧帽弁逆流(MR)を伴うことは少なくない.虚血性MRは冠状動脈病変に伴って起こるもので,心筋梗塞後のremodelingに伴い,後乳
頭筋が偏移してのtetheringや,弁輪拡大に起因するものが多い522),523).そのため,虚血性MR患者は,左室機能低下により予後が悪いものが多く,
degenerationやrheumatic changeによるMRとは区別して考える必要がある.さらに機能的MRであるため,状態によりMR gradeが変わってくるため評価にも注意を要する.

 治療方針として,虚血性MRにおいても,一般的なMRの手術適応と同様に,重度MRのあるものには僧帽弁手術を行うべきとの考え方が主流である524)-529).し
かしⅢ度のMRを伴う患者においても,CABG単独手術とCABGに僧帽弁形成術を加えた場合,生存率に差がなかったとの報告もある530)

 中等度MRの患者において,僧帽弁手術を行うかどうかは議論の多いところである.積極的に手術を行い,良好な成績を収めたとの報告524),527),531),532)もあるが,僧帽弁形成術を同時施行したものとの比較において,生存率に差がなかったとの報告も散見される530),533).また術前心不全に陥っている症例においてのみ,弁輪
縫縮術により予後改善が得られたとの報告534)もある.一方,中等度MRにCABGのみ行ったものでは,術後早期にMRは一時的に改善の見られる症例があるものの,多くの患者でMRは再増悪するとの報告535)-538)や,MR自体が術後生存におけるrisk factor との報告535),539)もあるが,CABG単独でMRが改善したとの報告540)もある.最近の我が国においても,CABG単独手術であればOPCABが可能となっており,僧帽弁手術を同時施行するかどうかでstrategyが大きく変わってくるた
め,症例によって適応を考慮することも重要である.

 術式としては,僧帽弁形成術の方が弁置換術よりも,手術後の早期および遠隔期成績とも優れているとの報告が多い524),529)が,弁置換術においても同等の
成績であったとの報告541)もある.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)