12 再冠状動脈バイパス術
■ 以前CABGを受けた患者で,保存的加療あるいはPCI によっても続く胸痛を自覚する場合再冠状動脈バイパス術の適応となる.胸痛が典型的でない場合,負荷試
験などによって冠状動脈虚血を証明する必要がある 【ClassⅠ,evidence level B】.
■ 以前のバイパスグラフトが閉塞しており,残った冠状動脈病変がCABGの適応となる場合も再手術の対象となる(左主幹部病変,左主幹部と3 枝病変) 【ClassⅠ,
evidence level B】.
■ 以前CABGを受けており,吻合可能な末梢血管が大きな範囲の心筋を還流しており,その部位が虚血に陥っている場合, 再手術が勧められる 【ClassⅡ a,
evidence level B】.
■ 以前のバイパスグラフトの中で左前下行枝もしくは大きな範囲の心筋を還流している大伏在静脈が,粥腫硬化により50%以上の狭窄を来たしている場合も再手術
を考慮する 【Class Ⅱ a,evidence level B】.
STSのデータベースによると再冠状動脈バイパス術の頻度は8.6%から10.4%である.また再冠状動脈バイパス術は,初回手術と比較すると死亡率が高い(9.6%
vs.2.8%)560).一方,日本胸部外科学会のAnnual reportによると,2003年に日本国内で施行された再冠状動脈バイパス術は617例でその57%がCCABで施行されていた.再冠状動脈バイパス術の頻度は,CCABでは待機的症例の2.7%,緊急症例の2.5%で,OPCABでは待機的症例の2.8%,緊急症例の2.0%であった.再冠状動脈バイパス術の死亡率は初回冠状動脈バイパス術と比較すると,CCABでは待機的症例で7.6%vs. 1.7%,緊急症例で19.5%vs. 12.1%で,OPCABでは待機的症例で1.8%vs. 1.4%,緊急症例で15.9%vs. 6.9%であった507).
開存グラフトのある患者の再手術においては,胸骨切開時にグラフトを損傷する危険が2~ 6%ある561).これに関しては再胸骨切開を行わず,左開胸でのアプローチが安全であるとの報告もある562).また動脈硬化性病変を持った静脈グラフトからの塞子により心筋梗塞を発症する可能性があり,グラフトの取り扱いには注意を要する.
再手術は初回手術に比べ術後低心拍出量症候群や呼吸不全などの合併症の頻度が高いものの560),遠隔成績は,必ずしも不良ではないことから560),周術期合併症の回避が重要である.これに対し,OPCABが有効であったとの報告がある563).
現状ではLADへのITAグラフトが開存していて,他の領域の虚血が問題となるケースが増えてきている.再手術例は一般に,高齢で低左心機能や,動脈硬化の進行
が認められることも多く,特にITA使用後であれば,使用可能なグラフトが限定されることにより,予後も大きく左右されることから,手術適応については慎重に判断する必要がある564).
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)