13 末梢血管病変
■ 末梢血管を病変合併したCABG症例に対しては人工心肺を使用しないほうが,脳合併症の頻度が低い 【ClassⅡ a,evidence level B】.

 冠動脈疾患と末梢血管病変の合併はよく知られた事実であり,末梢血管病変を手術する患者の37%から78%に冠状動脈病変を合併していると報告されている565).末梢血管再建をする患者にとって急性期および遠隔期の死亡率を左右する最大の要因は冠状動脈疾患の存在である557).末梢血管病変を治療する患者に対して,冠状動脈病変を合併している場合,CABGを行う方が内科的治療を行うより有意に長期生存を改善することが証明されている566).さらに,CABGとPCI と比較した研究でも中期生存率でCABGが優っていることが証明されている567)

 冠状動脈疾患に末梢血管病変合併例に対してCABGを行う際,末梢血管病変の存在はCABG症例の周術期,遠隔期の危険因子となり得る.CABG症例のうち末梢血管病変を有する群の院内死亡率は7.7%であり合併しない群の2.4倍(3.2%)であった568).人工心肺の使用の有無で比較検討を行った研究では,入院死亡に両群間で差がなかったものの人工心肺非使用群で術後の脳梗塞が有意に少なく,入院期間が有意に短かったと報告されている569).末梢血管病変合併例に対してCABGを行う際に,鎖骨下動脈起始部狭窄あるいは閉塞例や内胸動脈が下肢動脈の側副血行路になっている場合には,内胸動脈を末梢血管病変の血行再建なしに用いるべきでないが,その際のグラフト選択に関する検討はなされていない.

 末梢血管病変を合併した冠状動脈疾患患者に対しては,長期生存率の点からCABGを選択すべきであり,その際には人工心肺を用いずに行うことで術後脳梗塞の
発症を予防し,入院期間を短縮できる可能性があると思われる.
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)