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 悪性新生物に対し,縦隔への放射線治療を受けた既往のある患者では,冠動脈バイパス術後の縦隔洞炎の発生率が高い591).また,内胸動脈が強固な繊維組織に埋没していたり,内胸動脈グラフトがバイパス術後早期に閉塞してしまったケースも報告されている592),593).その一方で十分に長期開存が期待できるという報告もある594),595).しかしながら悪性新生物によっては,患者に長期予後が期待できないケースもある.したがって,これらの患者に内胸動脈をグラフトとして用いる場合には,十分な検討を要すると考えられる.

 乳癌に対して,乳腺および胸筋の切除を受けた既往のある患者では,胸骨正中切開創の治癒遅延が懸念される.しかし,偏側の内胸動脈の使用であれば,特に縦隔洞炎の発生率を増加させることはないと報告されている596)

 右胃大網動脈グラフトを使用した後に,胃癌を発症して胃切除術を要するケースが起こり得る.したがって,右胃大網動脈グラフトを使用する予定の患者では,胃内
視鏡検査を行って,胃病変のないことを確認しておくことが望ましい.不幸にして,胃切除術を行うことになっても,慎重に右胃大網動脈グラフトを剥離すれば,これ
をグラフトとして温存することは可能である597)
4 グラフトの選択
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)