1 大伏在静脈に対する抗血小板剤投与
■ アスピリンは静脈グラフトの早期閉塞の防止のために選択されるべき薬剤である.アスピリンの投与は標準治療であり,術後イベントを予防するために継続すべ
きである (ClassⅠ,evidence level A)
アスピリン(保健収載有)は術後1 年の静脈グラフト閉塞を有意に抑制する.動脈グラフトの開存性の明らかな向上は示されていない.アスピリンの術前投与は,術
後早期投与と比較して静脈グラフトの開存性を改善することはない239).アスピリン投与は術後早期に開始すべきである.アスピリン投与の前向き無作為比較試験は,術後7,24時間で開始された場合に有効性を示した240),241).48時間以降に開始された場合には無効であった242).一日投与量として,100mgから325mgが有効である.術後早期(48時間以内)のアスピリン投与は,死亡,心筋梗塞,脳梗塞,腎不全,腸管虚血の発生を有意に低下させた243).
チクロピジン(保健収載有)は有効であるが244),アスピリンにアレルギーのある患者以外にはアスピリンを超える有効性はない.顆粒球減少はまれとはいえチクロ
ピジンの重大な副作用であり,投与開始後の数か月は白血球検査を定期的に行うべきである.クロピドグレル(保健収載あり)は,チクロピジンと比較して副作用が少なく,血小板抑制剤としてアスピリンの代替となる可能性がある245).ジピリダモール(保健収載あり)の追加投与はアスピリンの静脈グラフト開存効果を向上させるこ
とはない239).ワルファリン(保健収載あり)は,静脈グラフト開存性維持に効果は示されず246),かえって出血性合併症の危険性を高める可能性がある247).アスピ
リンとクロピドグレル併用はアスピリン単独に対して出血性合併症を増加させるが,静脈グラフトの開存性を向上させるかについて定まった見解はない248).アスピリ
ンとクロピドグレル併用のアスピリン単独に対する優位性は示されていない.
まとめとして,アスピリン投与は,術後早期の静脈グラフトの血栓性閉塞の予防のために選択すべき薬剤である.術後48時間以内のアスピリン投与は標準的治療で
あり,術後合併症を予防するために無期限に継続すべきである.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)