1 静脈グラフト
■ 静脈グラフト病変に対して冠動脈ステントと末梢塞栓保護デバイスが考慮される (ClassⅡ a,EvidenceLevel B)

 CABG後の狭心症再発は非バイパス血管の新病変の出現,バイパス血管より末梢の固有冠動脈の新病変,バイパス血管の不全により生じるが,主な原因は静脈グラフトの機能不全である.血管造影検査では,術後10年で,静脈グラフトの約半数が閉塞あるいは高度狭窄を示す65),253).静脈グラフト閉塞による狭心症再発患者に対して再CABGは有効な治療法である. しかし, 再CABGは高い技術を必要とし,初回CABGに比較して死亡率や合併症発生率が高く症状改善度は低い254)-257).そこで,再CABGに替わり静脈グラフト不全の治療にPCI が選択される.PCI 手技として,バルーン血管形成術,冠動脈ステント,冠動脈粥腫切除術が用いられる.

 静脈グラフトに対するバルーン血管形成術は,固有冠動脈のバルーン形成術より初期成功率が低く再狭窄率が高い.静脈グラフトに対するバルーン形成術の再狭窄率は34~ 60%である258)-261).静脈グラフトの経過年数,グラフト内の狭窄部位,プラークの形態(限局性かび慢性)等が血管形成術の成績に影響する.静脈グラフトに対する血管形成術の合併症のなかでも特に冠動脈末梢塞栓とno-reflow現象は予後に影響を及ぼす.

 現在,静脈グラフト病変に対して冠動脈ステントが主に用いられている.静脈グラフト病変に対する冠動脈ステントとバルーン血管形成術の効果を検討した多施設前
向き無作為比較試験では,冠動脈ステントはバルーン血管形成術より初期成功率が高く(92%と69%),血管内径をより大きく得られた.再狭窄率に有意差はなかっ
たが(37%と46%),6か月後の死亡,心筋梗塞,再手術および再PCI を含む心イベントの回避率が高かった(73%と58%)262).静脈病変に対する薬剤溶出性ステントとベアメタルステントの長期効果を検討した比較研究では,生存率,心筋梗塞回避率に有意差はなかったが,ベアメタルステントで再血行再建率が高い傾向にあった263).静脈グラフト病変に対するPCI の際に冠動脈末梢を血栓塞栓から保護するデバイスとして,バルーン閉塞,吸引システム,フィルター型カテーテルが有効である264),265)
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)