4 抗高脂血症の薬理学的管理
■ CABG術後患者は,禁忌がない限り,スタチン療法を受けるべきである 【ClassⅠ,evidence level A】.
冠動脈硬化症に対してCABGを受けた患者を含め,動脈硬化症の患者が脂質低下療法を受けるべきであることについては,あまり疑問の余地がない.禁忌がなけ
れば,スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害剤)療法がLDLコレステロールを低下させるための第一選択となる.米国National Cholesterol Education Program(NECP,2001)のThe Adult Treatment Panel(ATP-III),および日本動脈硬化学会(2008)によれば,LDLコレステロールは100mg/dLまで低下させることが推奨されている270).粥状硬化による静脈グラフトの劣化(いわゆるvein graft disease)は,血管造影上,ロスバスタチンによって有意に抑制された(この試験では適宜コレスチラミンが追加投与されている).LDLを100mg/dL以下に下げる積極的な脂質低下療法を受けたCABG術後患者の静脈グラフトの劣化は27%で,140mg/dL以下に下げる緩やかな低下療法を受けた患者の39%の劣化に比較して有意に劣化が抑制されていた(p< 0.001)271).また,グラフト劣化に対する再手術率も積極的に低下させた群が6.5%,緩やかに低下させた群が9.2%と,積極的に低下させた群で29%少なかった.
シンバスタチン(保険収載あり)40mgとプラセボを比較した,20,536例を対象にした二重盲検試験であるThe Heart Protection Studyでは,LDLコレステロールが
もともと100mg/dL以下の成人を対象にしても,スタチン療法が有意に優れていることが明らかとなった272).したがって,LDLコレステロール100mg/dLという目標
ですら, まだ高いのだということ( この研究では,70mg/dLと100mg/dLで比較したもの),スタチン療法が単にLDLコレステロールのレベルを下げる以外に多彩な有益な作用を有していることも示唆している.PROVE IT Trialの結果をふまえて,NCEPは,ハイリスク群に属する患者では,LDLコレステロールの目標値を70mg/dLとするよう推奨している270).入院中にスタチン療法を始めると,より治療が継続されやすいということもあり273),CABG術後患者は入院中からスタチン療法を始めることが推奨される.
CABGを受ける前に既にLDLコレステロールが目標に達している場合でも,トリグリセリドの上昇とHDLコレステロールの低下には注意が必要である.これらの異常は,特に空腹時血糖の上昇,内臓脂肪肥満,高血圧などとの組み合わせがいわゆるメタボリック症候群といわれる状態であり,糖尿病へもつながり,心血管に関す
る合併症や死亡率を上昇させることにつながる.これらの患者は,食事療法,体重コントロール,毎日の運動,HDLコレステロールを上昇させ,トリグリセリドを低下さ
せる薬物療法が行われる必要がある.HDLコレステロールは40mg/dL以上,トリグリセリドは150mg/dL以下が目標である.このようなATP-IIIの推奨はガイドラインと
して提供されている270).インスリン抵抗性症候群や糖尿病患者では,腎機能を保護するためしばしばACE阻害薬やARBの内服が追加されることがある.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)