5 術後の降圧療法
狭心症を合併する高血圧では,抗狭心症作用を持つCa拮抗薬とβ遮断薬が第一選択となる.また,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系抑制薬であるACE阻害剤,ARBについても,もともと冠動脈疾患を有する患者の心血管イベントの抑制に同等に寄与していることが示されている274),275).Ca拮抗薬のなかでは,降圧に伴う反射性頻脈が少ないことから,特に長時間作用型Ca拮抗薬が推奨される276).CABG術前や,CABG術後でもPCI を併用した場合については,過度な降圧,特に拡張期血圧< 60mmHgとすると心血管イベントが増加することが示されているが,CABG術後については降圧に伴って心血管イベントが低下することが抑制されることが示されているため277),CABG術後には上記の薬物を組み合わせて,十分な降圧をはかることが心血管イベントの二次予防の観点から重要と思われる.
欧米における大規模臨床試験の成績では,内因性交感神経刺激作用のないβ遮断薬カルベジロールが陳旧姓心筋梗塞患者の心筋梗塞再発や突然死を有意に抑制することが明らかになっている.一方,長時間作用型Ca拮抗薬は予後を悪化させることはないが,短時間作用型Ca拮抗薬には悪化させる傾向が観察された.
広範な心筋梗塞により左室収縮機能が低下している患者(駆出率< 40%)では,RAA系抑制薬により左室リモデリング(心室拡張,心室肥大,間質繊維化)が抑制
され,その後の心不全や突然死の発生率が減少することが明らかにされている278).また,心筋梗塞後の低心機能患者において,RAA系抑制薬,β遮断薬,利尿剤
に選択的アルドステロン拮抗薬を追加投与することにより予後がさらに改善することが報告されている279).
しかしながら,これらの知見は対象にCABG術後患者が占める割合は多くなく,一般的な虚血性心疾患を合併した高血圧患者の管理におけるエビデンスであるので,CABG術後に限定した降圧療法に関するエビデンスは十分でない.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)