6 ホルモン療法
■ ホルモン補充療法の導入はCABG術後の女性患者には推奨されない 【ClassⅢ,evidence level B】.
ホルモン補充療法を受けることで,閉経後の女性の冠動脈疾患の死亡率が低下したという観察研究は30以上存在するが,ホルモン補充療法はCABG術後の女性
患者にはもはや推奨されない.The Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study(HERS)によれば,冠動脈疾患を持つ80歳未満の閉経後の女性を,プラセボか,エストロゲン/プロゲスチンのホルモン補充療法を受けるかで分け,無作為比較試験を行った.42%の患者がCABGの術後であった.主要評価項目は,非致死的な心筋梗塞と冠動脈疾患による死亡であった280).追跡は4.1年にわたって行われた.主要評価項目については統計学的な差はなかったが,ホルモン補充療法を受けた患者で心血管疾患による死亡が多かった(71%vs. 58%).ホルモン補充療法を受けた女性で, 深部静脈血栓症(p=0.004),血栓塞栓症(p=0.002)が有意に多かった.従来の観察研究で見られた結果と,この大規模な無作為研究の結果が大きく食い違った理由は,ホルモン補充療法が心血管疾患に対する防御効果を有する一方で,血液凝固のリスクを有することによるものと考えられる.それゆえ,PCI やCABGがおこなわれたことのある心筋梗塞を持つ女性患者に,ホルモン補充療法を開始すべきではない.ホルモン補充療法が行われている患者が,手術や卒中などで長期臥床を余儀なくされた場合,ホルモン補充療法は中止すべきである.米国で2002年までに行われた16,608人の健常閉経女性を対象としたWHI trialではエストロゲンとプロゲスチンの合剤とプラセボを二重盲検試験により比較したが,当初予定されていた期間より3年ほど早い時期に中止となった.これはエストロゲンとプロゲスチンの合剤を服用した群でリスクが上回る結果が出たためであった281).
現状ではホルモン補充療法は冠疾患のリスクを大きくすると考えられる.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)