2 左前下行枝(LAD)以外の冠動脈
LADに対してはITAを用いて血行再建することが標準的である.残るLAD以外の冠状動脈(Cx,RCA)をどのように血行再建するかの選択がある.LAD以外の冠状動脈に対して使用可能なバイパスグラフトは,ITA,RA,SVGなどがある.
■ 左前下行枝に内胸動脈を用いた場合,もう1本の内胸動脈は右冠状動脈よりも回旋枝に用いるべきである【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 左前下行枝以外の冠動脈に内胸動脈を用いた場合と橈骨動脈を用いた場合の遠隔成績はほぼ同等である【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 左前下行枝以外の冠動脈に対しても内胸動脈を用いた方が大伏在静脈を用いた場合に比べて10年後の遠隔成績が優れている【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ 左前下行枝以外の冠動脈に対する,橈骨動脈と大伏在静脈の遠隔成績の差は明らかでない【ClassⅡb,evidence level C】.
LAD以外に対してITAを用いる場合,Cxに用いるのかRCAに用いるかの選択がある.両側ITA使用例で,片方のITAをLADに使用し,もう一方のITAをCxに使用したCx群(RITA-LAD,LITA-Cx)または,RCAに使用したRCA群(LITA-LAD,RITA-RCA)の比較では,遠隔期(平均9.6年)の生存率がCx群93.1%,RCA群70.1 % とCx群で有意(p=0.021) に良好であった.CCSC(Canadian Cardiovascular Society Angina Scale classification)classⅠまたはⅡである比率がCx群94.6%,
RCA群91.6%であった.この結果は,RCAよりもCxにITAを用いて再建した方が遠隔成績は良好であることを示している237).
LAD以外の冠動脈に対する血行再建にITAを用いたITA群とRAを用いたRA群の比較では,周術期の合併症発生率はRA群で低率であった.遠隔期(術後18か月)
の生存率はRITA群98.4%,RA群99.7%と差がなかったが,無心事故生存率はRITA群92.3%,RA群97.8%とRA群で有意(p=0.02)に優れていたとの報告があ
る218). この報告は,LAD以外の冠状動脈について,ITAに対してRAの優位性を示している.一方,RA群(Y-composite) とRITA群(in-situ,Y-composite) の比
較で,8年生存率(RA 86.7%,RITA 86.9%),心事故回避率(RA 84.2%,RITA 88.9%),35か月グラフト開存率(RA 99.0%,RITA 100%)と両群間に差を認めな
かったとの報告もある238).70歳未満の患者を対象とした比較で,5 年後のグラフト開存率,心事故回避率などの点でRAとfree-RITAに差を認めなかったとの報告も
ある179).これらの報告は,LAD以外の冠動脈に対しITAを用いた場合とRAを用いた場合の遠隔成績がほぼ同等であったことを示している.
LAD以外の冠動脈に対する血行再建にITAを用いたITA群とSVGを用いたSVG群の比較(2本のITAと1本のITAの比較)では,10年後の,死亡,心臓死,心筋梗塞,再手術,PTCAの回避率などITA群で有意に良好であったとの最近の報告がある137).
LAD以外の冠動脈に対する血行再建にRAを用いたRA群とSVGを用いたSVG群の比較では,16か月後のグラフト閉塞や狭心症再発の発生率がRA群で低率であ
ったとの報告がある228).また,5年後のグラフト開存率,心事故回避率などの点でRAとSVGの間で差は見られなかったとの報告もある179).術後1年での開存率の比較ではRA 91.8%,SVG 86.4%と有意(p=0.009)にRAが優れていたが,string signはRA7.0 %,SVG0.9 %(p=0.001)とRAで有意に高率であった.70~ 89%の軽い冠動脈狭窄では開存率はRA 88.2%,SVG 83.8%と有意差を認めなかった(p=0.24).RAはSVGに比べて良好な開存率であったが,狭窄度の軽い冠動脈では差はなかったとの報告もある190).
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)