3 早期死亡
■ 高齢者, 人工透析患者等ハイリスク例に対するOPCABは,CABGにおける早期死亡のリスクを軽減する 【ClassⅠ,evidence level B】.
■ OPCABからCCABへの移行は,早期死亡のリスクを増加する 【ClassⅡ a,evidence level B】.
CABG術後の早期死亡は,年齢,低左心機能,緊急手術との関連がある.さらに,性別(女性),CABGの既往や,合併する慢性疾患(糖尿病,末梢血管病変,腎機
能障害,閉塞性肺疾患)はCABGの早期死亡のリスクを増加させる.これら,早期死亡に影響すると指摘されている諸因子は, 予測死亡率の算定のため,
EURO score,STS score,Japan score などに反映されている.
JACVSDによる,CABG単独手術のリスクモデルでは,30日死亡のオッズ比の高い順に,緊急手術(3.71),術前クレアチニン値3.0mg/dL以上の腎機能障害(3.59),術前呼吸障害(2.86),再手術(2.34)などとなっている3).
初回待機CABGにおける手術時年齢の影響について,EACTSからは,5歳きざみで年齢別死亡率が報告されている.それによると,56歳未満では0.9%であるが,
61~ 65歳では,1.3%,71~ 75歳では,2.9%,そして80歳以上では6.7%と漸次増加している17).2010年の我が国の10歳きざみの集計でも,70歳代以下の年齢層では,いずれも1.0%以下であるが,80歳代では1.5%の死亡率であった1).欧米に比し,高齢者の手術成績が優れているが,80歳以上では,若年者に比し高い死亡率であることは同様である.
男女の性差における死亡率について,EACTS報告では,男性が2.0%に比し,女性が3.1%と高く,年齢別での男女を比較しても,いずれの年齢層においても,女性
の死亡率が高いことが示されている.我が国においても,男性0.62%に比し,女性1.0%で,年度ごとの推移をみても,常に女性の死亡率が高いことが示されている17).
心機能については,EACTSの左室駆出率(EF)による比較で,EF> 0.50の心機能良好群では死亡率が1.4%だが,EF 0.30 ~ 0.50の心機能低下群では3.2%,EF<0.30の重度低下群では7.8%と著明な差を認めている17).
緊急手術との関連においては,待機的手術では1.4%であるのに比し,準緊急で2.6%,緊急では8.2%と手術成績に大きく影響することが示されている17).
腎機能障害の有無での比較では,腎機能正常では,1.8%の死亡率に比し,腎機能低下では,9.1%と著明な差を認めている17).
早期死亡率について,EACTSデータベースでは,2006~ 2008年の計214,415例の病院死亡率はOPCABで1.4%に比し,CCABで2.9%であった17).
CCABに対するOPCABの優位性は,初回待機例では,差を認めないとする報告が多い.初回待機例以外すなわち,緊急手術や再手術では多くの報告で認められている.また,高齢者や維持透析患者などのハイリスク例では,OPCABは死亡率を減少させることが示されている.初回待機例については,OPCABとCCABの早期死亡率に違いはみられない.CCABに際し,心停止下と心拍動下との違いによる死亡率の比較は,患者背景が異なることや心拍動下手術の選択が少ないため,評価は困難である.OPCABからCCABへの移行例は,早期死亡率が高いことは前述したが,CCAB移行例においても,標的血管の露出困難などで,血行動態が安定した状態で移行した場合は問題ないが,吻合中の血行動態破綻による緊急での移行は,死亡率の増加は顕著である.
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)