1 冠動脈バイパス術の適応
薬剤溶出性ステント(DES)の普及や慢性完全閉塞病変に対する手技の進歩などにより,PCI の適応が広がり,国内外においてCABG件数は減少傾向にある.しかし,2009年に発表された米国の循環器系6 学会合同の指標で,LAD近位部の狭窄を含む2枝病変では,CABG,PCI ともに妥当であるが,3枝病変やLMT病変に対しては,CABGは妥当だが,PCI は積極的には勧めることはできないとの評価であった5).2010年に発表されたESC/EACTSの冠血行再建術のガイドラインにおいても,CABGとPCI がともに適応となる慢性冠動脈疾患患者において,2枝以下の遠位部病変を除いては,CABGが強く推奨されている6).
一方, 積極的薬物治療の有効性も明らかとなり,LMT病変を除く安定狭心症を有する2型糖尿病患者では,5年生存率や主要な心血管有害事象(MACE)の発生で,CABG群と有意差が認められないと報告されている7).
CABGの適応は,薬物療法やPCI の適応や成績に大きく左右されるが,他の2者に対する利点は,血行再建の効果の大きさと即効性,持続性であり,逆に劣る点は侵襲の大きさと重篤な合併症の存在である.CABGの術式を決定する上で,前記2 つの内科治療との違いを常に意識して術式選択を考慮しなければならない.
冠動脈疾患の治療においては,単に冠動脈の解剖学的な病変のみで,治療法を選択することは適当ではない.年齢や心血管病変,他臓器機能など個々の患者背景を理解した上で,治療法の選択がなされるべきである.
また,PCI において,冠動脈造影による解剖学的完全血行再建に比し,冠血流予備能を評価した機能的完全血行再建の優位性が示されたが,CABGにおいても同様の認識が重要である8).
PCI かCABGかの適応が論議されるような症例においては,内科医と外科医からなるハートチームの検討を経て,患者にインフォームドコンセントがなされることが
望まれる6).
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)