6 腎不全
 
■ 腎機能障害のない患者に対して,OPCABは,術後腎機能障害発症のリスクを軽減する 【ClassⅡ a,evidence level C】.
■ 中等度以上に腎機能が障害された患者に対しては,OPCABの腎保護効果における優位性は得られない 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■ CABG術後遠隔期の腎機能は,術式の違いに影響されない 【ClassⅡ a,evidence level B】.

 CABG術後の腎機能に影響する因子は多い.体外循環使用の有無や体外循環時間がどの程度術後腎機能に影響するかは重要である47)-53).しかし,OPCABかCCABの差以上に,術前腎機能低下の程度が大きく影響することが知られている49).

 STSの483,914件のCABGを対象にして,術前腎機能をeGFR値から腎機能を正常,軽度障害,中等度障害,重度障害,透析の5 群に分類して手術成績を比較した報告がある48).手術死亡は,正常群を1.0とした際に,オッズ比が,順に1.02,1.55,2.87,3.82と高くなる.脳合併症や人工呼吸時間,DSWI,再手術率などの主要な術後合併症においても明らかな差が示されている.

 CCABでは,7.7%に腎機能障害(定義;血清クレアチニン値2.0以上もしくは術前より0.7以上の上昇)が生じると報告されている.術後に生じた腎機能障害の程度と死亡率の関係では,透析を要した症例では63%の死亡率,透析を要しない腎機能障害では19%,腎機能障害を呈しなかった症例では0.9%であったとされてい
47)

 腎保護効果という観点からみて,OPCABの優位性を明らかにした報告は少ない.

 OPCABとCCABの比較で,1 病日のCcrでのみ,OPCABが優位であったとする報告51)がある.

 術後腎機能障害の発生率について,propensity scoreを用いた検討がある.術前腎機能を血清クレアチニン値で1.5mg/dL未満を腎機能正常例,1.5mg/dL以上を腎機能障害例として, 術後急性腎機能障害発生率の差を,OPCABとCCABで比較されている.正常腎機能例では,OPCABで2.9%の発生に比し,CCABでは7.9%と高く,OPCABでの腎機能保護効果が示された.しかし,腎機能障害例では,OPCABとCCABで差が見られず,OPCABの腎保護効果が寄与しないことが示されている50)

 透析患者におけるOPCABとCCABの成績について,日本胸部外科学会の2008年統計による30日死亡率が,CCAB(心停止)で4.6%,OPCABで1.9%と差を認めている.

 しかし,病院死亡率で見ると,CCAB(心停止)で5.6%,OPCABで3.8%と差が縮小する.

 全米の13,085例の透析患者のCABG成績について,OPCABは最初の1年以内においてCCABより若干成績が良いが,その後は優位性は見られないとされている53)
 
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虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)