1 冠動脈バイパス術に伴う脳血管障害の発症頻度と予後
冠動脈バイパス術(CABG)術後の脳血管障害は非常に重篤な合併症であり,障害の定義によって発症率は0.4%から80%とまちまちである416)-418).著しい心臓外科の進歩にもかかわらず術後脳梗塞は未だ問題を残している.
ACC/AHAガイドライン419)では術後脳血管障害は2つのタイプに分けている.タイプ1障害は重篤で,局所症状を伴う脳神経障害,昏迷,昏睡と関連している.タイ
プ2障害は知的機能,記憶の低下が特徴である.多施設前向き試験によるCABG後のタイプ1障害とタイプ2障害の実際の発症率の報告24)では,術後脳血管障害は6.1%に発症し,タイプ1 障害(3.1%)とタイプ2障害(3.0%)はほぼ同等の発症率であった.これら脳血管障害の影響としてタイプ1 障害患者は21%,タイプ2障害患者
は10%の死亡率と報告している.さらに脳血管障害を起こした患者では在院日数が2 倍,療養所への転院が6倍にも昇った.またこれらの患者の長期予後も悪かっ
た420),421).
タイプ1障害患者の場合,術後早期(術後1日以内)に起こるearly strokeと,問題なく麻酔から覚醒した後に起こる(術後1 日以降)delayed strokeに分けられ,
Filsoufiら422)は52 % がearlyと報告しており, またNishiyamaら423)は63%がdelayedであったと報告している.予後に関してはearly strokeはdelayed strokeよりも悪く,死亡率はdelayed stroke 9%に対してearly stroke 24%と報告されている422).
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)