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 古典的な人工心肺使用・心停止下に行うCABGでは,急性の冠動脈閉塞症例の場合,心筋保護液を順行性だけでなく,逆行性に投与したり,末梢側吻合を終えた遊離グラフトから投与したりすることが推奨されてきた.しかし,これらの工夫を行っても,既に虚血が進行しつつある心筋に対する保護効果は予測しがたく,血行再建後の心機能は大動脈遮断を解除してみるまで分からない.これに対して最近では,人工心肺非使用・心拍動下CABG(off-pump CABG)の普及に伴い,急性冠症候群症例でもoff-pump CABGで血行再建を行う試みが報告されている616),617).off-pump CABGでは,血行再建を行っている間にもリアルタイムで心機能を評価できるという安心感がある.また,多変量解析を用いた検討では,心停止・人工心肺使用が,AMI に対するCABG後の死亡率を上げる独立した危険因子であることが報告された615).しかし,急性冠症候群症例では,循環動態が不安定な場合も多く, これを維持しながらoff-pump CABGを行うためには術者に高い技術が要求される.また,循環動態が不安定なために心臓を脱転できない場合でも,人工心肺を使用するだけで心拍動下に行うCABG(on-pump,beating heart CABG)が有効であるという報告もある618),619)

 いずれにしても,急性冠症候群におけるCABGの基本戦略は,循環動態の維持と可能な限り早い血行再建であり,その範囲内で臨機応変に術式を決定すればよいと考えられる.
4 心筋保護・人工心肺の使用
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)

Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)