1 人工心肺使用心停止下冠状動脈バイパス手術;CCAB の適応
■ 血行動態の安定が得られずOPCABができない症例,もしくは既に体外循環が開始されている例 【ClassⅠ,evidence level B】.
■( 解剖学的特徴や血行動態的理由から)心拍動下では露出や固定が得られない冠動脈に有意狭窄が存在し,人工心肺を使用することにより完全血行再建が得ら
れる例 【ClassⅡ a,evidence level B】.
■( 解剖学的特徴や血行動態的理由から)心拍動下での十分な露出や固定が危惧される例 【ClassⅡb,evidence level C】.
■ 人工心肺による脳梗塞等早期合併症リスクが高い例 【ClassⅢ,evidence level B】.
1. 上行大動脈・弓部大動脈・頚動脈に,有意な石灰化や粥状硬化を有する例
2.高齢者
3.血糖管理が不良な糖尿病患者
4.脳梗塞の既往
CCABは,血行動態不安定なハイリスク例が選択されているという認識と,OPCABは,他臓器機能障害などハイリスク例が選択されているという認識は,ともに間
違ってはいないが,ハイリスクの内容が異なることを理解し,危険因子を適正に補正した分析の後,成績の評価や適応を決定されなければならない.
CCABの利点は,血行動態に過大な注意を払うことなく静止野での吻合が可能なことで,OPCABに比し,外科的手技の難易度は低い.反面,体外循環に伴う諸臓器への悪影響や送血のためのカニュレーションや大動脈遮断などの操作に伴う合併症が多いなどが問題である.
日本冠動脈外科学会の2010年の統計で,手技別のバイパスグラフト本数が,CCAB(心停止)で3.18枝,on-pump beating CABG(心拍動)で3.07枝,OPCAB完
遂では,2.90本と少なくなっている1).CCABとOPCABの成績の比較の報告は多いが,Khanらの報告9)やROOBY study10),MASSⅢ 11)などいずれもCCABで
吻合本数が多く,術後のグラフトの開存率でもOPCABより高い開存率が示された.しかし,SMART studyでは,30日後も1年後もグラフト開存率に差がないと報告さ
れている12).すなわち,OPCABの成績は,外科医の習熟度に依存していると言える13),14).
OPCABからCCABへの移行では,手術死亡率が増加することにも注意しなければならない.特にRCA本幹への吻合時に重篤な心室性不整脈の出現など破滅的な血行動態の破綻が起こることがある.低心機能例や心拡大の著明な例では,心臓を脱転した時に血圧低下が持続することがある.心臓後面の吻合の際,心臓の脱転により僧帽弁閉鎖不全が増強したり,心への血液還流が減少して低血圧の原因になることにも注意が必要である.日本胸部外科学会や日本冠動脈外科学会の統計で,初回待機例のCCABとOPCAB完遂では30日死亡率はともに1%程度であるが,OPCABからCCABへの移行では4 ~ 7%と極めて不良であり,術前計画と術中の迅速な対応が重要である1),2).
虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン
(2011年改訂版)
Guidelines for the Clinical Application of Bypass Grafts and the Surgical Techniques( JCS 2011)